新型コロナ研究:2020年夏の旅行動向から読み解くこれからの観光

6月実施の夏の旅行意向調査結果はこちらから

[NEW!!]報告会・意見交換会を開催します。

立教大学観光学部1年生向け:

開催日時:1/14 13:25-15:05

申込先:こちらからお申し込みください。

学生向け(立教大学以外も含む):

開催日時:

 第1回:1/14 19:30-20:30

 第2回:1/15 19:30-20:30

申込先:こちらからお申し込みください。

調査の背景

 新型コロナウイルス蔓延により、移動の自由が失われ、一時、観光は不要不急のものとされました。このような状況から一転、今夏は政府によるGoToトラベル事業(以下、GoTo事業)により、賛否両論ある中で東京都民以外は旅行は推奨されました。

 

 本調査では、このような特殊な状況下であった今夏の旅行について、様々な観点から全60問にわたるアンケートを実施しました。本調査は回答者の多くが大学の授業オンライン化などコロナウイルスの影響をより強く受けた大学生です。生活に様々な制約のある中で、旅行を推奨された大学生がどのような意識で行動をしたのか、またそこから見える価値観の変化や普遍的な価値を明らかにしようと試みました。更に、本ゼミで6月に行ったアンケートと本調査を比較することで、夏前の旅行意欲と、今夏の旅行における行動との差異も明らかにしています。

 

 本調査は大きく次の4つの問題意識を持って実施しました。

1.GoTo事業が大学生の旅行スタイルに変化を及ぼしたのか。またその場合、変化は今後大学生にとっての旅行の在り方にどのような影響を与えるのか。

2.夏前の調査により大学生は旅行先の地域の意向を考慮すると思われたが、その意識は行動にどの程度反映されたのか。

3.私たちが発信に力を入れてきた『地元観光』はどのように実践されたのか。

4.このような状況だからこそ見えた『観光』のもつ価値はなにか。

 今後の「観光」、「観光まちづくり」を考える中で、旅行業界や観光協会、観光行政等、多くの関係者の方々にとって有益なものとなりましたら幸いです。

 

 尚、調査回答者のうち、約半数が観光を専門に学ぶ学生です。有意差のある回答は少なかったものの、一般の大学生よりも観光に関心のある層の意見を反映しているといえます。

 調査を経て議論を重ね論点整理をしましたが、私たちもまだ議論の途中であります。本調査は私たちが観光を学ぶ学生として持つべき問題意識を発見する貴重な機会であり、学ぶことが多くあったことは言うまでもありません。今後も継続し学生の旅行意識と行動に関する調査を行いたいと考えております。

 

 本調査にご協力頂きました皆様に、お礼申し上げます。ありがとうございました。本レポートの感想・ご意見を頂けますと、より一層の励みになりますのでよろしくお願いいたします。

調査レポート(2020年12月公開) 以下で閲覧できない場合はこちらからご覧ください。

上記のレポートへのご感想・ご質問をいただけますと大変励みになります。どうぞ宜しくお願いいたします。
Q1 特に関心を持った調査報告をお選びください(複数回答可)

ご協力ありがとうございました

調査から導かれた論点

​論点整理の考え方

  我々は緊急事態宣言解除後の6月に、自由に遠出ができない環境下で、地元を観光的に楽しむという「地元観光」の概念の提示を試みた。そして、2020年の夏は、緊急事態宣言明け初めての長期休暇となった。この状況を踏まえて次の3つの論点を設定する。

  第1に、遠方への移動が困難な時代の新たな観光のあり方として我々が提唱した「地元観光」は旅行がある程度許可された夏期も継承できたか?(論点①)第2に、新型コロナウイルス感染症のリスクを負いながらも観光が可能になったこの時期にどのような観光が求められ、また、旅行需要喚起策として展開されたGoTo事業はどのように受け入れられたのか?(論点②)そして、移動によってウイルスを運ぶリスクもある中で、どの程度、地域に配慮する意識を醸成できたか?(論点③)である。

 

  論点①は旅行先に非日常を求めつつ日常生活を送る本人が日常生活で「もう1つ」の非日常に気づくことができるか、点③は日常を離れ、非日常での観光を楽しむ本人が非日常に存在する「もう1つ」の日常に気づくことができるか、を意味する。

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①「地元観光」から見る論点

 地元観光とは

私たちは緊急事態宣言下、「withコロナの観光まちづくり」について議論を重ねた。そして、遠出ができない状況だからこそ、自身の居住地周辺の魅力に気づき楽しむ「地元観光」という考え方を提案してきた。

 「地元観光」とは、”日常”生活圏を“非日常”の視点をもち楽しむことであり、その楽しみ方も様々である。例えば家の近くの気になっていた飲食店に行ってみるといった一見日常の行動も「地元観光」といえるだろう。自分の住む場所やその周辺を観光客の目で見ることでより地域を知り、関心と愛着を持つことができると考える。

地元やその周辺への関心実態

地元観光を実施した人の割合は約4割、そして約7割の学生が今後の地元観光実施に関心を示した。地元観光の実施割合は調査を追うごとに増加しており、地元観光への関心も増加の傾向はみられないものの変化せず横ばいを維持している。

旅行が制限された状況から一変、推奨された中でも地元やその周辺への関心は維持されたといえる。また、地元への愛着度と地元観光の経験、関心には相関関係があることが分かった。地元への愛着度が高い人ほど、地元観光に高い関心を示しているといえる。

​関心を維持、向上させるために

地元が好きではないと回答した人も約4割が地元観光を行い、「魅力的な飲食店」など魅力や価値を発見したことが分かった。地元が好きな層はもちろんのこと、地元に愛着を持っていない層を地元への関心をもち愛着を高めてもらうため、より多くの魅力や価値に気づくきっかけづくりが必要であるといえよう。

また、地元観光を経験した人は経験していない人に比べ今後の地元観光への関心が高かった。「人の温かさ」や「地元の名産の素晴らしさ」に気づいた人は今後の地元観光への関心がとても高いことが分かった。コロナ禍で人と交流することが難しいが、その中でも身の回りの人の温かさを実感できる機会や地元の名産の素晴らしさを再認識できる機会が大切であるだろう。また、地域ならではの魅力的なお店など地域らしさを反映した情報を発信することで、住民の関心が高まり、地元愛の創出、深化に繋がるのではないか。

出身と学部の違いに見る今後の地元観光

地元観光の経験については観光学部の地方出身者が最も高く約6割にのぼった。観光学部以外の学部の地方出身者が続いて高い割合になり、地方出身者は都市部出身者に比べ地元への関心が高いことが分かった。地元の愛着度に関しても、地方出身者は「とても好き」という回答が最も高い割合であった。以上の結果から地方出身の学生は「地元観光」を牽引していく存在であるといえるのではないか。

今後、地方出身の学生が「地元観光」を継続し発信していくことで、都市部出身の学生にも関心を広め、地方でも都市部でも「地元観光」の考え方が浸透していくことが期待される。潜在的に関心が高いだろう地方出身者に対してより「地元観光」への関心が高まる工夫を行うことで地元観光が推進されるだろう。

観光は地域があることで成り立つが、都市部の観光学部生は地元への関心が観光学部以外の学生と同じであった。観光を学ぶものとして、これまで以上に地域への関心を持つことが大切だろう。

②GoTo事業から考える論点

旅行者全体の傾向

今夏は、旅行を促進するGoTo事業が始まり、多くの旅行意欲を持った学生が、旅行の制限から解放された夏だった。しかし、実際に旅行に行った人は約半数にとどまった。旅行のきっかけは、「友達に誘われたから」と回答した人が最も多く、主体的に旅行へ行くという姿勢が見られなかった。「GoTo事業等で安く行けたから」の回答は2番目となっており(p.31)、GoTo事業を利用せずに旅行をした学生が約半数いたことから、旅行代金の割引だけではなく、周囲からの後押しが、学生の旅行を促したと考えられる。

GoTo事業から除外された東京都民について

今夏、都民は、GoTo事業の対象者から除外されるという形で、国から旅行することを規制された。そのことは、約半分の東京都民の旅行意欲を減退させることに繋がった。また都民以外と比べて、今夏の平均旅行回数が少なく、日帰り旅行に関しては、有意差が見られた。その一方で、東京都民の宿泊旅行先と、都民以外の宿泊旅行先を比較したところ、都民の方が、遠くへ旅行をしていたという結果も出ていて、旅行意欲は低く、回数も少ないが、遠くに旅行をするという傾向が見られた。

GoTo事業は旅行の選択肢の幅を広げることにつながった

GoTo事業によって、普段の旅行で利用する宿泊施設のランクよりも高めの施設に泊まったり、食事の質や、旅行回数、滞在日数を増やしたりする傾向が見られた。GoTo事業は、宿泊旅行で使った人がほとんどで、その中でも、より遠方へ行く旅行で利用している人が多い。そして滞在日数、お土産、旅行先での体験、食事に、普段の旅行よりもお金をかけた人のうち半数以上が「今後もお金をかけたいと思った」と回答している。

GoTo事業による旅行代金の支援は、旅行前に、目的地や宿泊施設を選ぶ際、そして目的地での行動を選ぶ際に、選択肢の幅を広げることに繋がった。今までとは異なるところにお金をかけてみることで、今後もお金をかけてみたいと思えるような経験が出来たことは、学生にとって良い機会であったと考えられる。

滞在日数へのアプローチ、お土産・食事・体験の工夫

GoTo事業利用客である学生の傾向によると、旅行代金の割引によって、普段とは異なるお金の使い方をした結果、学生は新たにお金をかけたものの良さを見出すことができた。そこで、地域側がすべきことは、学生が今後もお金をかけたいと思っている要素である、滞在日数、お土産、食事、旅行先での体験を中心に、 GoTo事業終了後も、それらにお金をかけることの価値を発信することである。GoTo事業終了後、割引がなくなったとしても、お金をかけることで得られる価値が学生にきちんと伝われば、多くの学生が今後もお金をかけようと思うのではないか。

地域全体で観光客を迎える姿勢

GoTo事業終了後も、その地域へ再訪したいと思う意欲が「とても高い」と回答した人の割合は、41.1.%で、宿泊施設に対する再訪意欲の27.9%と比べて、高い数字であった。つまり、GoTo事業を活用した学生は一過性の観光客ではなく、地域のリピーターとなる可能性が高い。そのため、GoTo事業がきっかけで地域に来た観光客を、大切に地域全体で迎え入れるべきではないか。特に、宿泊施設と地域が連携して、魅力を積極的に伝えていくことで、地域全体として再訪客を増やし、GoTo事業終了後に良い効果を生み出せると考えられる。

訪問先を思いやる観光の促進という論点

訪問先を十分に考慮できていない現状

本アンケートの結果から、今夏に学生が旅行に関する意思決定をする上で、「訪問先に感染を広げてしまうリスク」を危惧している人は約9.2%と、ほとんどいないことが分かった。また、旅行の計画を立てる際に「訪問先県や市の観光客受け入れに対する意向」を調べたという人も多いとは言えない結果であった。これらのアンケート結果から、新型コロナウイルスの感染という点においては、現状、訪問先のことまで考慮している人は少ないと言える。

より特別で非日常的なものになった旅行

また、新型コロナウイルスの流行によって観光をめぐる環境が一変した今日における「旅行」が学生にとってどのようなものになったのかを問う設問からは、“旅行の価値・特別感が増した”という回答や、“旅行をすることのハードルが高くなった”という回答が多く得られ、学生にとって良くも悪くも旅行がこれまで以上に特別なもの=非日常的なものになったと考えられる。

 これらのことから、学生にとって旅行がより非日常的なものになってしまった今だからこそ、観光地には非日常と同時に「もう一つの日常」が存在しているということを意識する、つまり訪問先を考慮する=思いやる観光を広げていく必要があると考える。

訪問先を思いやる観光の必要性

本アンケートから、新型コロナウイルスの流行によって学生にとっての旅行がより非日常的なものになったと考えられる。そんな今、改めて意識しなくてはならないのは、私たち観光客が非日常を求めて訪れるその地域も、地域住民にとっては日常であり、観光客の些細な行動一つで地域住民の日常を壊してしまい得るということである。地域住民の日常を守っていくためにも、非日常の中に存在している「もう一つの」日常に目を向けなければならない。

さらに、日常が保たれているからこそ地域本来の魅力が守られていると考えると、もし観光客がその地域の日常を壊してしまったら、観光客が求めているその地域の魅力が失われてしまうことになるということである。だからこそ、訪問先を思いやる観光をすることは、「地域住民のために」だけでなく、「観光客である自分たちのため」でもあると言える。 

それだけでなく、訪問先を思いやる観光が広がること=観光客の質の向上を意味しており、それによってオーバーツーリズムによる観光公害の解決にも繋がると考えられる。

これら3つの視点から、地域住民と観光客の双方にとって快適で心地の良い地域にするためには、“訪問先を思いやる観光”を広げていくことが必要不可欠であると言える。さらに、“訪問先を思いやる観光”を広げていくためには、観光客、あるいは地域側のどちらかが努力するのではなく、双方が協力して取り組んでいく必要があるのではないか。

訪問先を思いやる観光を広げるために地域側に望まれること

訪問先を思いやる観光を広げていくために地域側が地域自身のためにするべきこととして、“その地域が持つ価値や魅力を理解・発信し、地域内で共通認識を持つこと”が挙げられる。自分の地域の価値や魅力を地域住民が理解していなければ、それを観光客に伝えることも出来ないため、地域の意向に合わない観光客も減ることはないだろう。したがって観光客がその地域の価値や魅力を守ろうという思いやりのある行動をすることも難しくなり、地域の価値や魅力も損なわれてしまうと考えられる。だからこそ、まずは自分達自身が価値・魅力を理解することから始める必要があるのではないか。

さらに地域側は、地域の価値や魅力を明確に発信していくことで観光客に伝える必要がある。発信する際には禁止表現を用いるのではなく、観光客にその地域で体験してほしい価値を、体験したくなるように発信することが重要ではないだろうか。観光客に地域の価値を理解してもらえるように発信することで、その地域ならではの価値に魅力を感じた観光客=その地域の価値を壊さないように地域を思いやった観光をしてくれる観光客だけがその地域を訪問してくれるようになり、地域としての魅力・価値を持続させることが出来るのではないか。

このように、地域側から訪問先を思いやる観光を広げていくためには、“観光地側が観光客を選別する”という新しい観光地の在り方に目を向ける必要がある。

訪問先を思いやる観光を広げるために観光客に望まれること

訪問先を思いやる観光として観光客が地域のためにするべきこととしては、地域が発信する情報をもとに、その地域がどんな魅力や価値を持っているのかをしっかりと理解したうえで訪問先を選択することが考えられる。その地域で自分は、観光客としてどんな行動が求められているのか、自分が観光客として求めているものとその地域が観光客にもたらしてくれるものは本当に同じであるのかを確かめたうえで訪問先を選択することで、地域側と観光客間のミスマッチを防ぐことができ、その地域の魅力や価値を壊すことなく、地域住民と観光客の双方にとって快適なまちを維持することが出来るのではないだろうか。

地域本来の魅力が守られているのは日常が保たれ、秩序が乱れていないからである。だからこそ、自分が観光客として魅力ある地域を楽しめているのは、地域住民やそれまでに訪れてきた観光客がその地域の日常を守ってきたからであるということを忘れず、自分の行動が他の観光客や後の観光客に影響を及ぼすということを考えて、責任のある行動を心掛けなければいけないのではないか。

調査報告会の開催(記録)

2020年12月22日の14:00〜15:00に、オンラインで報告会を実施しました。以下はいただいたご意見と主催した学生の感想です。

参加者数 9名
 

【いただいた意見】

  • 地元観光のような考え方は以前からあったため、歴史との照らし合わせをすると良いのではないか。

  • 観光に深みを増す学生が増えそうだが、マイナスな面もあったのか。

  • 地元観光のサービスの提供者は誰なのか、経済活動促進にはつながるのだろうか。

 

【感想】

  • 意見交換をする際に、スムーズに進めることができなかったため、今後に生かしたい。

  • 地元観光にさらなる深みを増すためには、以前からあった同じような考え方のものとの共通点や相違点を見つけ、生かしていく必要性を感じた。

  • 地元観光を実際どのように活用できるのかなど、研究をしていく上で、次のステップに進みたいという意欲が増した。